近刊

対話から始まる 難しい親への支援

アタッチメントとトラウマ臨床に基づく「DOREMI」の実践

著者
宮口 智恵(編著)、酒井 佐枝子(編著)
出版年月日
2026年11月30日
ISBN
978-4-911864-02-9
Cコード
C0036
価格
2,500円+税
ページ数
208ページ
判型/綴じ
A5判/並製
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紹介

アタッチメント研究者・数井みゆき氏推薦!
「専門性とわかりやすさを兼ね備え、実践につながる。
難しい養育者支援のヒントが詰まった一冊。」

子育てや養育に困難を抱える親に、どのように向き合い、支援したらよいのか。児童相談所、市町村の相談機関、児童福祉施設、里親支援機関、医療・保健・教育分野など、親子や養育者に関わる実践者に向けて、アタッチメントとトラウマ臨床に基づく「CRCDOREMI子育てプログラム」の考え方と具体的な実践を解説する。子どもの行動の背景にあるニーズを理解し、親との対話を通して親子関係の再構築を支えるための視点と実践的な手立てを学べる一冊。

目次

読者の皆さまへ[数井みゆき]
はじめに―対話から始まる、難しい親への支援[宮口智恵]

1章 親との対話の前に
 1. 社会的養護にある子どもと親[河合克子]
 2. アタッチメントの視点を活用する―養育者支援につなぐために[岩本沙耶佳]
 3. トラウマの視点を活用する―「今、ここ」に居るために[酒井佐枝子]

2章 DOREMI子育てプログラムのあらまし[宮口智恵・岩本沙耶佳]
 1. CRCでの親子関係再構築支援とは
 2. なぜDOREMI子育てプログラムを開発したのか
 3. DOREMI子育てプログラムの実施概要
 4. 実施結果と課題

3章 DOREMI子育てプログラムの実際―養育者との対話のプロセス[宮口智恵]
 1. プログラム1回目「子どもを知ろう」
 2. プログラム2回目「養育者の役割を知ろう」
 3. プログラム3回目「あなたのリソースを知ろう」

4章 対話の土壌としてのファシリテーターであるために[酒井佐枝子]
 1. DOREMIのファシリテーター
 2. ファシリテーションにおける「3つの眼」
 3. 「3つの眼」の実践的理解
 4. 親子関係再構築を支援するファシリテーターとして

5章 DOREMIを支える土台―FDWの5原則[宮口智恵・河合克子]
 1. FDW養成講座を開始した背景
 2. FDWとは何か
 3. FDWの5原則―支援の質を支える共通の視点

おわりに[酒井佐枝子]

前書きなど

「はじめに」より一部抜粋

◯なぜ、親と対話するのか
 「親への支援が難しい」―児童相談所や市町村、児童福祉施設など子どもと家族を支える現場で、しばしば聞かれる言葉です。子どもの安全を守りたい。親に、子どもの気持ちや状態へ目を向けてほしい。子どもに適切に対応してほしい。そう願い、支援者は親との関係を築こうとします。しかし、変容を求めて働きかけを重ねるほど、親が支援から遠ざかり、私たちが無力感や戸惑いを抱えることも、たびたびあります。
 親の拒否、沈黙、怒り、約束を守れないことの背後には、不安や恐れ、傷つきの体験、孤立、生活上の困難などが重なっています。このように、行動の背景を理解する必要があることは、どの支援者も頭では分かっています。しかし、表面に表れる言動に翻弄されると、親への理解を深めるという状態にはなかなか行きつきません。
 親の背景を理解するためには、親と出会い、観察して、その声を聴き、本当のニーズを探っていくほかありません。私たちは、長年にわたるアタッチメントの学びを通して、そのことを実感してきました。
 もちろん、親を理解することは、子どもの安全を脇に置くことでも、不適切な養育を容認することでもありません。子どもの安心・安全を支援の中心に置き、親を「変える対象」としてではなく、子どもの安心を共につくる相手として捉えます。そして、親や子どもの不安や恐れを一緒に見ていきます。そのために、親との「対話」が必要なのです。
 本書でいう「難しい親」とは、親そのものだけが難しいという意味ではありません。
 親と支援者、そして関係機関の間に、まだ十分な理解やつながりが生まれていない状態を表しています。つまり、ベクトルは私たちにあるのです。

◯養育者自身の声を聴く
 CRCの親子関係再構築支援プログラム「ふぁり」に参加した養育者から、次のような言葉を聴いてきました。

「こんなふうに、自分の子育てについて話したことがなかった。」
「子どものことも、自分のことも、ここでは一緒に話すことができた。」

 子どもについて語るとき、そこには、養育者自身の体験やこれまで歩んできた人生が映し出されます。そして、立場は異なっても、親、里親、施設職員など、養育を担う人が、悩みや迷いを抱えながら子どもと向き合っていることは共通しています。
 私たちは、長年にわたり多くの親や養育者と出会うなかで、支援の入り口について、一つのことに気づきました。養育に困難を抱える人が最初に求めているのは、「正しい子育ての方法」ではありません。その前に、「子育てをしている自分のことを知ってほしい」「自分にも関心を向けてほしい」という願いがあるのです。
 ただ、多くの場合、その願いは明確な言葉では語られません。それどころか、「放っておいて」「監視しないで」と言っているような様子に見えるかもしれません。だからこそ、支援者が立ち止まり、養育者が何を体験しているのかに関心を向ける必要があります。養育者が自分の体験や思いを語り、それを誰かと共有することは、自分自身と子どもを少し離れたところから見つめ直すきっかけになります。支援の入り口に必要なのは、助言や指導ではなく、対話ではないか―CRCDOREMI子育てプログラムは、この問いから生まれました。

◯「見ること」から始まる対話
 安心の土台づくりの練習は、「見ること」です。子どもが安心しているときも、不安や恐れを抱えているときも、養育者に余裕があるときも、余裕を失っているときも、まず、そこで何が起きているのかを一緒に見ます。私たちは、これを次の「3つの見る」として整理しています。

①子どもを見る―行動の背景にある気持ちやニーズを理解する。
②自分を見る―養育者自身の感情や反応、体験に気づく。
③リソースを見る―自分を支える人・力(学び)・体験を見つける。

 うまくいかない場面にこそ、子どもの行動の意味や養育者の体験を理解する手がかりがあります。支援者と養育者が「見ること」を共有するとき、子どもの安心を共に考える対話が始まります。
 DOREMIの目的は、支援者が知識を教えたり養育者を評価したりすることではありません。子どもの行動を観察し、その背景にある不安や願いを考えること。養育者自身の感情や、これまでの体験にも目を向けること。そして、親子の安心を支える人や、養育者がすでに持っている力に気づくことです。

著者プロフィール

宮口智恵(みやぐち・ともえ)
認定NPO法人チャイルド・リソース・センター(CRC)代表理事。社会福祉士、公認心理師。大阪府社会福祉職を経て、2007年にCRCを設立。虐待など子育てに困難を抱える親と子どもの関係再構築を支援する「CRC親子プログラムふぁり」を開発し、児童相談所や乳児院で実施。支援者向けの養成講座を主催し、保護者支援やアタッチメントに関する研修講師も務める。著書に『虐待したことを否定する親たち』(PHP新書)、『虐待する親への支援と家族再統合』(明石書店)など。

酒井佐枝子(さかい・さえこ)
兵庫県こころのケアセンター研究部長。博士(人間科学)。臨床心理士、公認心理師。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学大学院留学後、大阪大学大学院連合小児発達学研究科准教授を経て、2020年度より現職。子ども虐待の防止・再発予防に関する研究を基盤に、子育て家庭への支援に関する臨床・教育・研修活動に取り組む。親支援プログラム「ノーバディーズ・パーフェクト」の認定トレーナー。近年は、トラウマインフォームドケア研修の普及にも携わる。分担執筆に『実践トラウマインフォームドケア』(日本評論社)、『子どものPTSD』(診断と治療社)など。